木と暮らすこと。それは、サスティナブルな未来への第一歩

リノベを希望する人の間でも、要望が多い無垢材。その魅力と付き合い方について、松山氏が無垢材専門メーカー『マルホン』の福岡ショールームを訪ねた。設計・施工のプロでもある松山氏も驚いた、無垢の奥深い世界とはー

 

無垢の魅力に触れる体感型ショールーム

「わぁ、これは素晴らしい空間ですね」。数々の住宅、飲食店、温浴施設などを手がけてきた、[リノベエステイト]の松山さんが感嘆の声を上げたのは、木の香りがふわりと広がる[MARUHONFUKUOKA]。創業88年の無垢材専門メーカー[マルホン]が2020年に開いた福岡ショールームだ。

 

360度に広がる壁面にディスプレイされているのは、300種類以上の木板のサンプル。まるで図書館に規則正しく並べられた書籍のように美しく、見惚れてしまう。土足で入れる店内の床にも無垢が使われており、日常の中で刻まれた小さな傷が、いい風合いとなって空間に溶け込んでいる。ここは、その変化を見に行くだけでも価値がある場所だ。

 

 

これまで、床材を選ぶときは、小さなサンプルからイメージを膨らませるのが通例だったが、このショールームでは、より大きなサンプルを見て、足で触って、体験してから選ぶことができる。松山さんも「家づくりにおいて、施工後のイメージをきちんと確認できるのは素晴らしいです」と大いに共感する。

 

天然素材ならではの良さと選び方を知ろう

戦前、戦後の家屋は畳や無垢の床が当たり前だったが、高度成長期に入り、集合住宅や賃貸住宅が主流になると、表面にキズが入りやすい無垢は敬遠されるようになった。その代わりとして誕生したのが、「複合フローリング」。複数の木材を接着剤で張り合わせた合板に、コーティングを施された手入れが簡単な床材だ。

 

時代が移り変わり、ナチュラル思考の人が増えている現在は、無垢フローリングを希望する人が増えている。リノベーションを選択する人にその傾向が強いのは、暮らし方まで目を向けた家づくりをしている人が多いからだろう。2000年からリノベを手がけている松山さんの会社[リノベエステイト]でも、ほとんどの住宅で無垢の床材を採用している。

 

松山さんは「20年前はかっこよさみたいなのが支持されてトレンド的に広がっていましたが、今は、調湿性や肌触りといった、本物の良さを理解した上で、無垢フローリングにしたいという人が増えているような気がします」と、世間があらためて無垢の優秀さに気づき始めていると感じている。地主に提案する立場である松山さんも無垢を愛する一人で、魅力は体感済み。

 

「機能性も優れていますが、香りが心にもいいなと思うんです。自然素材を家に取り入れると、それだけで心が落ち着く感じがします」。[マルホン]の中村さんも「本物の良さ、木の持つ力は大きいと感じています」と大きく頷く。「機能面で言うと、調湿作用が優れていますね。まるで呼吸をしているかのように、空気中の湿気を吸収したり、放出したりしてくれるので、年間を通してちょうどいい湿度に保ってくれます。そのおかげで、肌触りもすごくいいです。複合フローリングは、ペタペタした感覚があると思いますが、無垢は夏でもサラサラ。ショールームで実際にご体感いただくと、こんなに違うんですねと驚かれますね」と中村さん。

 

だが、無垢ならすべて同じという訳ではないそうだ。松山さんは「ナチュラル思考になっているので、オイル仕上げや自然塗料仕上げがトレンドの一つになっている」と感じているそうだが、脂系のウレタン塗装や、紫外線を当てて塗料を乾かすUV塗装など、無垢にコーティングを施したものも多く流通している。

 

二つには大きな差があり、ウレタン塗装やUV塗装を施した床は、木の表面を覆ってしまうため、調湿作用は働きづらくなるとか。木を保護する、という面ではメリットはあるが、同時に木の良さも消してしまっているならもったいない。

 

その点、自然派塗装は木の良さをそのまま体感できるが、気になる点もある。
よく指摘されるのが、キズが付きやすいや、キシキシ言うなど、扱いにくさに関するもの。だが、これは「うまく付き合っていくことで解決できますよ」と松山さん。「キズが付いても、下に見えているのも同じ木なので、いい表情になるんです。僕はその感じが好きだし、実際に使っていると、キズがキズに見えなくなってきます。取れない汚れは、サンドペーパーで削ればいいですし、それができるのは自然派塗装の無垢だけ。むしろ、コーティングした床材は安易に剥がすことができないので、自分では修復できないんです。歴史ある神社仏閣も、削ることで復元するという技術を採用していますから、塗装を分厚く塗らないのも、一つの手ではないでしょうか」と付け加える。

 

それでも「調湿作用がある分、反ったり膨らんだりするんでしょう」と、違う側面に不安を感じている人もいるだろう。実際には、どのぐらいの変化が起きるものなのだろうか。[マルホン]の鈴木さんは「昔に比べて精度は上がってきていますし、品質管理は当社がこだわっているポイントの1つです。それでも無垢特有の反りや隙間が気になる場合は、木の動きが少ない種やサイズをご提案しますので、ぜひご相談ください」と説明する。

 

同時に、木の種類によっても、膨張しやすいもの、傷がつきやすいものがあるので、それぞれの特徴を押さえておきたい。木の種類は大まかに針葉樹と広葉樹に分けられる。生活の中でどちらの木材とも付き合ってきた経験があるという松山さんは「どちらもいいので、あとは好み。実際に触ってみるのが一番です」と、体感してから決めることをおすすめしている。

 

奥深さに驚き!幅や張り方で遊ぶ

床材を選ぶ楽しみは、材質だけではない。板の幅や張り方でも、表情はガラリと変わる。福岡ショールームでは、一般的な75m~90m幅以外にも複数のサンプルを揃えており、見比べることができる。

 

一番狭い35m幅は、どんな空間にマッチするのだろう。中村さんによると「スタイリッシュで上品な仕上がりになります。一枚一枚自然な色むらが感じられ、節が入りにくいので、ナチュラルさと上品さが両立しますね。廊下のような小さな空間に使っていただくと、空間を広く感じさせます」。松山さんも「この幅、いいですよね。自分が使うなら、この幅狭か、一番幅広かな。広い部屋に幅広を使うとかっこいいと思います」と想像を膨らませる。

 

 

さらに張り方でも、印象は大きく変わる。一般的なのは「りゃんこ張り」。
同じ寸法の木材を一定の長さで支互にずらしながら、規則正しく張っていく方法で、主張しすぎない自然な仕上がり。また、ヘリンボーンという変わった張り方も。ベルサイユ宮殿の床にも採用されている張り方で、とにかくオシャレ。さらに追求すれば、表面加工にも種類があり「天文学的組み合わせがありますね」と松山さん。

 

「ヘリンボーン」という貼り方の例。おしゃれで洗練された印象を与える。ベルサイユ宮殿にも採用された技法

 

福岡ショールームには50種類を揃えるが、さすがの松山さんも「知っているのは半分ぐらい。奥深すぎて、設計している人でもよくわかっていないですから、ショールームでやっぱり見た方がいいなと、今日確信しましたね」と笑っていた。

これだけあると迷いそうだが、鈴木さんは選び方のポイントとして「お好きなインテリアや、イメージカラーから、絞っていくことができます。無垢は経年変化で色が変わっていくものもあるので、実際にサンプルで変化を見ていただいてから、決めていただいた方がいいですね」とアドバイスしている。

 

床暖房にも対応最新の無垢フローリングとは

無垢フローリングのデメリットは、床暖房に対応していないこと。そう言われていたのは、今は昔になっているようだ。
[マルホン]では、熱処理などの工夫を施し、全面無垢の床暖房対応フローリングを生み出している。
木材の価格は、世界情勢や国の方針に影響を受けることが多く、一刻一刻と変化しているため、一概に価格を提示できないという。ただ、グレードやサイズ、張る範囲を工夫すれば、価格を抑えることができる。工務店などに相談してみよう。

 


(フクオカリノベ 2022 no.09 掲載)