福岡の、リノベーション事情

全国的に盛り上がりを見せているリノベーション。 でも私たちが暮らす、福岡の状況って? そこで、いち早くリノベーションに注目し、 これまで数々の物件を手がけてきた松山さんに、伺いました。

リノベーションはバブル崩壊から始まった

リノベーションが生まれた経緯には、バブルの崩壊が大きく関係していると思います。それまで予算をドンと投入し、無駄な装飾が目立つような新築物件をどんどん作ってきたけれど、経済が立ち行かなくなり、ようやく冷静になったというか、身の丈に合ったものを求め出した感じです。そして2000年くらいからリノベーションという言葉が聞かれるようになったんですが、これが不思議なことに、首都圏と地方にタイムラグがあまりなく、全国各地で同時発生的にプレイヤーが生まれたんですね。ただ、プレイヤーのすべてがバブルに学んでその方向を目指したかというとそうでもなく、例えば僕は、それまでにパリやロンドンなどの欧米の住宅を見ていて、築100年の建物を住み継ぐためのリノベーションという手法に、もともと興味があったんです。ちょうど、日本で1960年頃から増えていた鉄筋コンクリートの集合住宅がある程度時間を経て、リノベーション向きの物件へと変わってきたことで、その必要性を感じたということもありますね。そして2004年に、中古建築再生に特化した「リノベエステイト」という事業部を設立したのですが、当時は中古住宅が流通しているものの、それをスケルトンにしてもう1度作り込もうという人はほとんどいませんでした。そもそも中古物件は、新築物件に手が届かない、かわいそうな人が住むもの、といったネガティブな要素がまだまだ強かったんです。それが徐々に、「中古物件を自分のスタイルにアレンジして住むのがカッコイイ」という価値観に変化し、今では新築よりも中古を求める人がものすごく増えている。驚きですよね。実際、東京では新築の流通量を、中古の流通量が超えたという数字が出ています。

現在の福岡のリノベーション事情とは

中古マンションの流通量が新築マンションの流通量を超える。その波は、もう福岡にもやって来ていると思います。近年は、国が既存住宅の流通を活性化させることを重要視しており、第三者によるホームインスペクション(住宅診断)を入れることで、安心安全な中古マンションの流通を促すしくみも推奨されています。福岡県にも、ホームインスペクションに関する助成金ができましたし、中古マンションの流通量は上がっていくと思いますよ。

リノベエステイトの事務所は、1964年建築の「BLDG64」内。実はこちらも松山さんがフルリノベーションを手がけたもの

福岡は、ポテンシャルの福岡は、ポテンシャルの高い街 !

福岡では、東日本大震災以降にも住宅のあり方が変わってきたように思います。まず、関東圏からの移住者が増えたことで福岡の新しい価値がクローズアップされ、脚光を浴びるようになった。例えば糸島エリアなんかがわかりやすいと思います。福岡市内に住んでいる人にとっては、天神・博多に通勤することを考えるとちょっと遠く、敬遠しがちかもしれない。けれど関東から来た人たちから見たら、海も山も身近に感じられながら、街まで電車で30分、空港までも1時間以内でアクセスできるなんて、とんでもなく便利だ!と。またそうした人たちが、福岡に来たとはいえ、いきなり家を買うわけではないので、まずは賃貸に住む。でもせっかくなら面白い賃貸に住んで、納得できたら中古のマンションでも買ってリノベーションしようかな、と。関東の人にとっては、嬉しいと思いますよ。福岡の都市力がいくら向上しているといっても、東京に比べると不動産はかなり安いんですから。東京23区ともなると、2LDKの中古マンションが5000万とか、とにかく高い。しかし東京の人がぼくらの2倍給料をもらっているかというとそうではないですからね。そういう意味でも、福岡は本当に恵まれていると思います。だからみなさんにもっと伝えたい。「福岡ではもっともっと、家づくりを楽しむべきですよ!」と(笑)。

自然に恵まれ、街中へのアクセスもしやすい糸島は、県外の移住者から注目を集めている

これからももっとリノベーションは増える

「これからも福岡ではリノベーション物件が増えていく?」という問いに関しては、「YES!」でしょうね。先に述べた、「国を上げて推進している」、「中古住宅に住むというネガティブなイメージが払拭された」「福岡という街の価値が上がっている」といった要素があることがその理由です。

また最近では、リノベーション物件にも様々なスタイルが登場していて、例えば、当社が主に手がけているようなフルオーダーメードのリノベーション物件もありますし、不動産会社が物件を購入し、リノベーションを施して売りに出す買取再販もあります。そうした多様性が生まれることで、「とにかくイチからこだわりたい人」「全体が新しく整っていればOKの人」など、それぞれのニーズに合った物件が増え、リノベーション業界はますます盛り上がっていくんじゃないかと思います。

松山 真介さん、リノベエステイト代表取締役、一級建築士。2017年現在は、リノベーション住宅推進協議会福岡部長も務める。